「ピラティスの“インプリント”って何?」
「骨盤ニュートラルとどう違うの?」
そんな疑問をお持ちの方に向けて、この記事では**ピラティスにおける「インプリント(インプリンティング)」**について、わかりやすく解説します。初心者の方はもちろん、姿勢改善に取り組みたい方にも役立つ内容です。
🧘 インプリントとは?ピラティスでの意味
インプリント(Imprint)とは、仰向けに寝たときに背骨、とくに腰の部分(腰椎)をマットに軽く押し当てるような感覚を持つことを指します。

ピラティスでは、骨盤をやや後傾させることで、背中から腰までをマットにやさしく“刻み込む(imprint)”ように接地させる感覚を養います。
この動作は、腰の反りを防ぎ、体幹の安定性を高めるために行われます。
💡 骨盤ニュートラルとの違いは?
ポジション | 骨盤ニュートラル | インプリント |
---|---|---|
骨盤の傾き | 自然な前弯を保つ(やや反っている) | やや後傾(軽く背中を押し付ける) |
背骨の状態 | 自然なS字カーブを保つ | 腰椎がマットに軽く触れる |
適した状況 | 姿勢の学習、日常動作の再教育 | 腹筋運動、安定性の強化、初心者指導 |
☝「なんでもニュートラル」は危険かも?
最近では「ニュートラルポジションが絶対に正しい」という風潮も見られますが、常に骨盤ニュートラルでいることが正解とは限りません。
なぜなら、人それぞれ骨格や柔軟性、筋力のバランスが異なり、必ずしも理想的なアライメントを再現できるとは限らないからです。
とくに初心者やリハビリ中の方にとっては、ニュートラルよりもインプリントの方が安全で正しい感覚を養いやすい場合もあります。
最終的には「骨盤ニュートラル」を維持しながらエクササイズをすることが望ましいケースが多いですが、「インプリントは意味がない」という考えを持つ必要はありません。
✅ インプリントのメリット
1. 腰の安定感がアップ
背中全体をマットにつけることで、腹横筋(ふくおうきん)や骨盤底筋などの**深層筋(インナーマッスル)**を自然に働かせることができます。
2. 姿勢の基礎づくりに効果的
インプリントを通して「背骨のどこがマットに触れているか?」を意識することで、身体の感覚が研ぎ澄まされていきます。
3. 初心者の腹筋トレーニングに最適
ピラティスでよく使われる「レッグリフト」「ロールアップ」などの腹筋エクササイズでは、腰が浮いてしまうと腰痛の原因になります。インプリントでしっかりと腰を安定させることで、安全にトレーニングが可能です。
4. 強度が高い仰向けエクササイズ時に効果あり
リフォーマーにおいて、フットバーの下から上に押し上げてフットワークをする「トーアンダー・フットワーク(Toe-under Footwork)」というエクササイズがありますが、かなり腰が反りやすいエクササイズです。この場合、ニュートラルを保とうと思っても腰が反ってしまうことがあります。このようなかなり腰を反りやすいエクササイズの当初は、腰を守るためにも、インプリントの意識を持つという選択肢を捨てる必要はありません。
⚠️ インプリンティングの注意点
インプリントは便利なテクニックですが、常に使えば良いというわけではありません。
- 常用すると腰椎の自然な前弯を損なう可能性がある
- 骨盤ニュートラルでの姿勢保持が目的のエクササイズでは逆効果になることもある
✔ 使いどころの目安
状況 | インプリントを使うべき? |
---|---|
仰向けで腹筋トレーニングをする時(初心者) | ◎ |
姿勢を整える練習中(初心者) | ◎ |
立位でのアライメント訓練 | × |
腰部の自然な可動性を保ちたいとき | △ |
🧠 どんな人におすすめ?
- ピラティス初心者
- 腰痛予防に取り組みたい方
- 腹筋が苦手で背中が反りやすい方
- 骨盤の位置がわかりにくいと感じる方
インプリントは、**「身体の感覚がわかりにくい人のガイド役」**としてとても役立ちます。
🧘♀️ インプリントにおいて働く筋肉|解剖学的解説
インプリントの際は、体幹を安定させるためのインナーユニットが働きますが、それ以外に骨盤を後傾させるための腹斜筋群や肋骨を閉めるための肋間筋、骨盤底筋と連動させるための
✅ 筋肉の分類とその役割
分類 | 筋名 | インプリントでの役割 | 解剖学的位置づけ |
---|---|---|---|
インナーユニット (腹腔内圧を調整する中核) | 腹横筋 (Transversus Abdominis) | 腹部を引き締め、体幹を内側から固定 | 腹筋群で最も深層に位置 |
多裂筋 (Multifidus) | 背骨(特に腰椎)を微細に安定させる | 脊柱に沿う深層筋 | |
骨盤底筋群 (Pelvic Floor Muscles) | 骨盤底を引き上げて内臓と体幹を支える | 骨盤内底部 | |
横隔膜 (Diaphragm) | 呼吸と連動しながら腹腔内圧を調整 | 胸腔と腹腔の境界、ドーム状の筋 |
分類 | 筋名 | インプリントでの役割 | 解剖学的位置づけ |
---|---|---|---|
連携・補助的に関与する筋群 (体幹表層〜中層) | 内腹斜筋 (Internal Oblique) | 骨盤の後傾・腹横筋の補助 | 腹横筋の外側、外腹斜筋の内側 |
外腹斜筋 (External Oblique) | 肋骨の下制・腹部安定の補助 | 腹部表層の斜走筋 | |
肋間筋 (Intercostals) | 肋骨の安定、胸郭の支持 | 肋骨間に位置 | |
内転筋群 (Adductors) | 骨盤底との連動、骨盤の安定 | 太ももの内側 |
⚠️ 注意すべき代償筋
以下の筋肉が過剰に働いているときは、代償的な動きが発生している可能性があります:
筋名 | 不適切な使い方 | 解説 |
---|---|---|
大臀筋(Gluteus Maximus) | 骨盤を無理に後傾させる | 腹筋が使えていない代償動作 |
ハムストリングス(Hamstrings) | お尻が浮く・腰が押し込まれすぎる | 骨盤安定の主導を担ってしまう |
🔁 インプリントを活用した簡単エクササイズ
インプリント・レッグリフト
- 仰向けに寝て膝を立てます。
- 息を吐きながら、骨盤を少し後傾し、腰をマットに軽く沈めます(インプリント)。
- その状態をキープしながら、片脚ずつ持ち上げてテーブルトップポジションに。
- ゆっくりと元に戻します。
✅ 腰が反らないように注意。腹筋が“奥から使われている”感覚を意識しましょう。
📚 参考文献
- Friedman, P., & Eisen, G. The Pilates Method of Physical and Mental Conditioning. 1980.
- Latey, P. (2001). The Pilates method: History and philosophy. Journal of Bodywork and Movement Therapies.
- Isacowitz, R. (2006). Pilates. Human Kinetics.
📝 まとめ:正しさは人それぞれ。だからこそ「感じる力」が大切
ピラティスのインプリントは、体幹の安定性・身体の感覚向上・安全な動作の土台づくりにとって非常に有効なテクニックです。
最近は「骨盤ニュートラルが正しい」と語られがちですが、すべての人に共通の正解があるわけではありません。
インプリントとニュートラル、それぞれの特徴を知り、自分に合った方法を選べる“感じる力”を育てることが、ピラティスの本質ともいえるでしょう。