目次
解剖学で紐解く、“股関節の奥”への正しいアプローチ
はじめに
腰痛予防や坐骨神経痛のセルフケアとして、多くのメディアやレッスンで紹介されている「梨状筋ストレッチ」。
仰向けになり、片脚を反対側の膝に乗せて“4の字”を作るこのポーズは、あまりにも有名で、「お尻を伸ばす=これ」というイメージをお持ちの方も多いのではないでしょうか。
おかげさまで、梨状筋ストレッチ|効果的な「4の字ストレッチ」のやり方と足首の使い分けという記事のアクセス数がとても多く、多くの方にご興味いただいている様子が伝わります。
一方で、解剖学で紐解くと、実は上記の内容は半分正しいが、半分間違っていると考えています。
では、ひとつ質問です。
下のストレッチを行ったとき、お尻のどこに一番伸び感を感じていますか?

もし、
- お尻の横側
- 外側が突っ張るような感覚
- 表面が強く引っ張られる感じ
が強い場合、
実はそれは 梨状筋ではなく、中殿筋が伸びている可能性が高いのです。

もう少し正確に書くなら、「梨状筋も伸びている可能性は高いが、伸び感は中殿筋の伸びを感じている可能性が高い」です。
今回は、ピラティスの専門的な視点から「4の字ストレッチで本当に何が起きているのか?」
そして、股関節の“奥”にある梨状筋へ、どうアプローチすればよいのかを、解剖学に基づいて紐解いていきます。
「4の字」で伸びるのは、実はお尻の“横”
結論からお伝えすると、
一般的な4の字ストレッチの形は、解剖学的に見ると
- 中殿筋
- 大殿筋
といった、お尻の表層にある大きな筋肉に刺激が入りやすい構造になっています。
その理由は、4の字ストレッチに含まれる動きにあります。
4の字ストレッチに含まれる主な要素
- 股関節屈曲
- 股関節外転(膝を外に開く)
- 股関節外旋
このうち、「膝を外に開く(外転)」という動きは、
梨状筋の付着部同士を近づける方向の要素を含んでいます。
つまり、
「伸ばしているつもりでも、構造的には梨状筋が伸びにくい角度」
になりやすいのです。
一方で、中殿筋(特に前部線維)は、
この姿勢によってダイナミックに引き伸ばされます。
「お尻の横が気持ちよく伸びる」という感覚は、まさにこの中殿筋の反応です。
もちろん、中殿筋をストレッチすること自体は非常に有効ですが、
「梨状筋を狙う」という目的とは、ターゲットがずれている
ケースが少なくありません。
なぜ「梨状筋ストレッチ」は誤解されやすいのか?
梨状筋を正しく捉えるのが難しい最大の理由は、
この筋肉がもつ 非常に特殊な性質にあります。
梨状筋は“カメレオン”のような筋肉
梨状筋は、股関節の角度によって働きが変わります。
- 立位・伸展位
→ 股関節の外旋筋 - 深い屈曲位(90度以上)
→ 股関節の内旋筋へと作用が逆転
この「作用の逆転」があるため、単純に「膝を外に開けば伸びる」という話にはなりません。
むしろ、梨状筋をピンポイントで捉えるには、
- 股関節をニュートラル〜軽度屈曲に保ち
- 内旋方向のベクトルを作る
といった、
4の字とは逆の発想が必要になることが多いのです。
東京の三軒茶屋と仙台泉のスタジオでは、トライリングスが併設され、こちらのマシンでは以下のような動きが可能です。

伝統的に「リバースインナーサイ」という名前で知られているエクササイズですが、股関節ニュートラルのポジションから内旋する動きがあり、お尻の奥の方の伸び感を感じられるエクササイズで、まさに梨状筋の伸び感はこのようなエクササイズで感じることができます。
インナーマッスルの伸び感は「地味」で正解
4の字ストレッチを含めた一般的に「梨状筋ストレッチ」と呼ばれるストレッチでは、梨状筋とは違う場所が伸びている可能性が高いことは、少しずつ理解いただけましたでしょうか?
皮膚の近くにあるアウターマッスルは、感覚受容器が多く、伸ばすと
- 強いストレッチ感
- 痛気持ちいい感覚
を感じやすい特徴があります。
一方、梨状筋のような深層筋(インナーマッスル)は、
- 伸び感が弱い
- 「奥がじわっとする」
- 「えくぼの奥が重だるい」
といった、非常に地味な感覚として脳に伝わります。
強い伸び感がないからといって、「効いていない」わけではありません。
むしろ、強烈なストレッチ感がある場合は、表層の筋肉が主張しすぎて、奥の梨状筋の感覚をかき消している(マスカリングしている)ことも少なくないのです。
ピラティスチェアの「ピジョン」を再考する
ピラティスのマシン、特にチェアを使ったエクササイズには、
座面に片脚を乗せ、上体を倒す「ピジョン(鳩のポーズ)」に似た動きがあります。

この動きについて、
- 「梨状筋が伸びる」
- 「腸脛靱帯(ITB)をストレッチできる」
と説明されることがありますが、バイオメカニクスの視点で見ると、慎重に捉える必要があります。
腸脛靱帯を伸ばすために必要な条件
- 股関節伸展
- 股関節内転
一方で、チェアのピジョンは
- 股関節屈曲
- 股関節外転
というポジションです。
構造的には、
腸脛靱帯を伸ばす条件とは逆の位置関係になります。
この動きで主にストレッチされるのは、
- 大殿筋
- 中殿筋前部繊維
- 股関節後方の関節包
といった組織であり、
ITBそのものへの直接的なストレッチ効果は限定的です。
「解説書にそう書いてあるから」ではなく、骨と筋肉のつながりという原理原則に立ち返ることで、より安全で、納得感のあるアプローチが見えてきます。
ピラティススタジオBBが大切にしている「正確性」
私たちの身体は、驚くほど精密で、奥深い構造をしています。
「なんとなく伸びている」から「狙った組織に、必要な刺激を入れる」へ。
この一歩の違いが、坐骨神経痛のようなデリケートな不調や、パフォーマンス向上を目指す方にとって、大きな差となって現れます。
ピラティススタジオB&Bでは、解剖学的な根拠をもとに、
「今の姿勢なら、4の字よりも、この角度の方が梨状筋に入りやすいですね」
といった、**一人ひとりの骨格に合わせた微調整(タクタイル)**を行っています。
おわりに
もし、長年ストレッチを続けているのに改善しない不調や、「効いているはずなのに、変わらない」違和感がある場合。
本当に必要なアプローチは、意外なほど地味で、終わったあとに歩きやすさや軽さとして現れるものかもしれません。
ぜひ一度、プロフェッショナルな視点で「今の自分に合っているか?」という答え合わせをしてみてください。
ただし、伝統的な4の字ストレッチやチェアのピジョンストレッチが「悪いストレッチ」だとは思っていません。また「梨状筋も」伸びている可能性はあります。
ただ、どこかのインストラクターやトレーナーが、それが例え「マスタートレーナーの称号」や理学療法士のような国家資格を持っている方が「このムーブメントでは梨状筋や腸脛靱帯が伸びます」と言ったことを、そのまま信じるのは違うと思っています。
改めて解剖学的な観点から考え、本質に立ち返って、自身が動いてみて納得していただけると嬉しく思います。
【編集後記・補足(田沢)】
三軒茶屋と仙台泉にあるマシンでは純粋な「股関節ニュートラル位での内旋」で「梨状筋のストレッチ感」を感じるエクササイズをすることが可能です。

この一見地味な動きこそ、他の筋肉に邪魔されず、深層外旋六筋(梨状筋など)へダイレクトにアプローチできる“隠れた名エクササイズ”です。
この動きをピラティスマシンでも再現したいのですが、なかなかうまく出来ません。
マシンのサポートがあるからこそ可能な、純粋なインナーマッスルへの刺激。ぜひ三軒茶屋スタジオと仙台泉スタジオで体感してみてください。
この記事の監修者:田沢 優(ピラティススタジオBB 代表)
NPCT(米国国家認定ピラティス指導者)東京大学大学院・身体科学研究室修了。
身体運動学・神経筋制御を専門とし、科学的根拠に基づいたピラティスメソッドを構築。2013年にピラティス国際資格である、PMA®認定インストラクター資格を日本で4番目に取得。2015年「トレーナー・オブ・ザ・イヤー」受賞。PHIピラティスジャパン東京支部長を約5年間務め、都内を中心にパーソナルピラティススタジオを複数展開。オリンピック選手、プロ野球選手、Jリーガー、パラアスリート、頸髄損傷者などへの幅広い指導実績を持ち、インストラクター育成数は500名超。文英堂『運動療法としてのピラティスメソッド』にて3編を執筆。現在は「ピラティスをブームではなく文化にする」ため、後進育成と専門教育に尽力中。