
この記事の執筆者:鈴木 新之助
ピラティススタジオBB 仙台泉 | PHI Pilates インストラクター
- 回旋は脊柱だけの動きではなく、頸椎・胸椎・肩関節・股関節が役割を分担する全身の動きであること
- ジョイント・バイ・ジョイント理論から見た「動くべき関節」と「安定すべき関節」の整理、そして腰椎で代償が起きる理由
- 立位でスプリングを使う意味(前方からの負荷と後面の筋群の連動)と、回旋・抗回旋を扱うときの観察・キューイングのポイント
回旋という動きをどう捉えるか
「回旋のエクササイズ」と聞いたとき、多くの方はまず背骨をひねる動き、つまり胸椎回旋を思い浮かべるのではないでしょうか。
しかし実際の回旋は、脊柱だけで完結する動きではありません。頸椎、胸椎、肩関節、股関節など、複数の関節が役割を分担しながら生み出す全身の動きです。どこかひとつの関節が担いきれなくなったとき、その負担は必ず別の場所へ移動します。
本記事では、回旋という動きを解剖学的な役割分担から捉え直し、マシンや立位でどう扱うか、そして現場でどう観察し、どうキューを出すかまでを整理します。「正しい形を教える」のではなく「その人に合った動きを見つける」ための、ひとつの視点としてお読みいただければ幸いです。
回旋が使われにくくなっている背景
人の身体はもともと、屈曲(前に曲げる)・伸展(反らす)・側屈・回旋という三次元の動きができるように設計されています。
ところが現代の生活では、スマートフォンやパソコンを見る時間が長くなり、前かがみの姿勢が占める割合が増えました。前後方向の動きだけで一日が終わる日も珍しくありません。その結果、本来備わっているはずの回旋や側屈が、日常のなかで十分に使われないまま過ぎていきます。
ここで大切なのは、テクノロジーそのものを悪者にしないという姿勢です。デスクワークもスマートフォンも、多くのクライアントにとって手放せない前提条件です。だとすれば私たちの役割は、その環境を否定することではなく、その環境のなかで身体をどうケアしていくかを一緒に考えることにあります。
ジョイント・バイ・ジョイント理論 ― 動く関節と、安定する関節
回旋を考えるうえで土台になるのが、モビリティ(可動性)とスタビリティ(安定性)という2つの概念です。身体はこの2つが交互に配置されることで、効率よく力を伝えられるようになっています。
関節ごとの役割分担
| 関節 | 主な役割 | 補足 |
|---|---|---|
| 足関節 | モビリティ | 距腿関節・距骨下関節の動きが土台になる |
| 膝関節 | スタビリティ | 屈伸が主体で回旋要素は小さい |
| 股関節 | モビリティ | 回旋・内外転を含む多方向の動き |
| 腰椎 | スタビリティ | 分節あたりの回旋可動域はごくわずか |
| 胸椎 | モビリティ | 回旋の主役となる部位 |
| 肩甲帯 | スタビリティ | 胸郭の上で土台をつくる |
| 肩関節 | モビリティ | 三次元的に大きく動く |
| 頸椎 | モビリティ | とくに上位頸椎の回旋能力が高い |
つまり、動くべき関節は動き、安定すべき関節は安定する。これがジョイント・バイ・ジョイント理論の基本的な考え方です。
ただし、これはあくまで身体を理解するための「モデル」であって、守るべき規則ではありません。スタビリティの関節とされる腰椎も、まったく動かない関節ではなく、動かしてはいけない関節でもありません。「腰椎は安定させるもの」という言葉だけが先に伝わると、クライアントが腰を動かすこと自体を怖がるようになることもあります。
安定とは、動かないことではなく、必要な場面で必要なだけ動き、余計には動かないこと。理論を使うときは、この一文を手元に置いておきたいところです。
「腰をひねる」が起きてしまう理由

腰椎の回旋可動域は、文献によって数値に幅はあるものの、胸椎に比べて明らかに小さいことが一貫して報告されています。椎間関節の関節面の向きが、腰椎では矢状面に近く、回旋を制動する構造になっているためです。
にもかかわらず、クライアントに「上半身をひねってください」と伝えると、腰から動いてしまうことが少なくありません。これは意識の問題というより、胸椎回旋が出ない分を腰椎が肩代わりしていると捉えるほうが実際に近いでしょう。
回旋の指導では、可動域を広げにいく前に「今どこが動き、どこが動いていないのか」を見極めることが先になります。
「硬い」のか、「使えていない」のか
胸椎回旋が出ないとき、つい「胸椎が硬い」と判断しがちです。けれど、横向きで他動的に動かすと十分に回るのに、自分で回そうとすると出てこない、というケースは少なくありません。
この場合に必要なのは、ストレッチで可動域を広げることではなく、「その範囲を自分で使えるようにする」ことです。可動域の問題なのか、コントロールの問題なのか。この見極めによって、選ぶエクササイズも、かけるキューもまったく変わってきます。
目の前のクライアントの回旋が小さいとき、最初にどちらを疑うでしょうか。
回旋を引き出すエクササイズと指導ポイント
ここからは、回旋・抗回旋を扱う具体的なエクササイズを、指導上のポイントとあわせて整理します。
ショルダーブリッジ+骨盤回旋

まず前提として、ブリッジには大きく2種類あります。
ヒンジブリッジ
- 股関節主導で骨盤ごと持ち上げる
- 臀筋・ハムストリングスの働きが主体
- 腰椎への負担が少ないとされる
アーティキュレーティングブリッジ
- 脊柱を一節ずつ順番に動かす
- 背骨の分節的な可動性を養う
ブリッジを保持したまま骨盤回旋を加え、回旋したままロールダウンしていきます。左右それぞれの背骨の接地感を確認しながら、順番に下ろしていくのがポイントです。
骨盤を傾けたときに片方の脚が開いてくることがありますが、これは必ずしもエラーではありません。その結果として股関節・骨盤・脊柱がどう連動しているかを観察するほうが有益です。
画像ではバレルに足を置いていますが、片足でボールを踏むバリエーションを加えると、下肢の安定性を保ちながら脊柱の動きを引き出しやすくなります。
関連記事 スウェイバック姿勢とショルダーブリッジ
ロールダウン+アレンジ

ロールダウンの途中で動きを止め、その位置で肩関節を動かします。さらに側屈・回旋・重心移動を加えていきます。

肩だけを動かすのではなく、胸椎から脊柱全体をコントロールしたまま動かせているかを見ます。屈曲位で止まっている時点で体幹の要求は高いため、無理に大きく回旋させる必要はありません。
サイドベント+胸椎回旋

側屈した姿勢から、胸椎の回旋を加えます。
このとき骨盤を完全に固定する必要はなく、自然についてくる範囲の動きは許容します。動かす部分と安定させる部分を分けて意識できているかが、このエクササイズのテーマです。
もうひとつ見ておきたいのが呼吸です。胸椎は肋骨と関節でつながっているため、胸椎の回旋は胸郭の動きと切り離せません。回旋のたびに息を止めていたり、胸郭を固めたまま回ろうとしていたりすると、胸椎回旋は出にくくなります。
回旋の大きさを見る前に、呼吸が続いているかを見る。それだけで動きが変わることも少なくありません。
関連記事 ピラティス=胸式呼吸はもう古い?|呼吸法について改めて考える
ワイドポジションでの抗回旋

身体をわずかに回旋させてスプリングに張力をつくり、その張力に対抗しながら身体の中心を保ちます。動きとしては派手ではありませんが、抗回旋(Anti-rotation)を学ぶ代表的な形です。
「回旋させないこと」を目的にした課題であり、体幹に対する要求は回旋そのものより高くなる場合もあります。
立位プッシュアップ
同じセットアップから、2つの目的で扱えます。
抗回旋(Anti-rotation)

- スプリングに身体を回されそうになるのを、体幹を正面に保ったまま押す
- 安定性とコントロールが課題
回旋(Rotation)

- スプリングの張力を利用して回旋する
- 大きく回すことが目的ではなく、下半身で安定させながら回旋するのがポイント
スクワット+ロー(回旋)

下方向からスプリングを引き、ローイングと回旋を組み合わせます。
求めていることは次のとおりです。
- スクワットで下肢が安定していること
- かかとで床を押せていること
- 胸椎・頸椎で回旋がつくれていること
- 骨盤(ASIS)は自然に少し動く程度でよいこと
立位でスプリングを使う意味 ― 前方からの負荷と後面の筋群
立位でのスプリング種目には、他の肢位にはない特有の仕組みがあります。
スプリングの張力が身体の前方・下方向からかかるため、姿勢を保つだけで背面の筋群が自然に働きます。つまり身体の前側に負荷がかかっている状態で、それに対抗するために後面の筋群や姿勢保持筋を使い、立った状態を保っているわけです。
このとき動員される代表的な組織が後面の筋群(Posterior Chain)です。
- 脊柱起立筋
- 多裂筋
- 臀筋群
- ハムストリングス
- 背部の筋膜ライン
後部斜めスリング(Posterior Oblique Sling)
さらに回旋が加わると、身体の後面を斜めに結ぶ連動システムが関与します。
右広背筋 → 胸腰筋膜 → 左大臀筋(およびその反対側の組み合わせ)
このラインが働くことで、片側の下肢で生み出した力が体幹を経由して反対側の上肢へ伝わります。スクワットで床を押し、体幹を安定させ、反対側へ力を伝えて回旋につなげる ―― この流れは、歩行やスポーツ動作の力の伝わり方とよく似ています。
スクワット(下肢のパワー)と、回旋を伴う引く動き(後部斜めスリングの連動)を組み合わせることには、そうした意味があります。
日常生活は「立位・重力下」で起こる
日常生活の動作を思い返してみると、そのほとんどが立位で、重力下で行われています。
- 椅子から立ち上がる
- 物を持ち上げる
- 呼ばれて方向転換する
- 歩く
- 片足でバランスを取る
仰向けのエクササイズには、姿勢の再学習や分節的な動きの習得という明確な役割があります。そのうえで、立った状態で安定・回旋・抗回旋・筋力を育てる時間をセッションのどこかに置けているか。ここは一度、自分のプログラムを見直してみる価値があります。
指導への応用
観察のポイント
- 回旋を指示したとき、最初に動くのはどこか
- 胸椎が動いているのか、腰椎で代償しているのか
- 左右で動きの質にどんな差があるか
- 動いてほしい関節と、安定してほしい関節が入れ替わっていないか
回旋は「どこから始まるか」
同じ角度だけ回旋していても、目線から始まる回旋、胸から始まる回旋、骨盤から始まる回旋では、身体のなかで起きていることはまったく違います。上から順に回っていくのか、下から積み上げていくのか。歩行やスポーツ動作の回旋にも、それぞれ固有の順序があります。
回旋の「量」だけでなく「順序」に目を向けると、観察の解像度は一段上がります。明日のセッションで「ひねってください」と伝えたとき、その回旋はどこから始まっているでしょうか。
キューイング例
- 「胸のあたりから、後ろの壁を見にいくように回してみましょう」
- 「かかとで床を押したまま、上だけついてくるイメージで」
- 「回すというより、スプリングに引っ張られないように我慢してみてください」(抗回旋)
- 「骨盤は多少ついてきて大丈夫です。その分どこが動いているか感じてみましょう」
プログラムへの組み込み方
回旋を単独の種目として足すのではなく、すでに行っている種目に回旋・抗回旋の要素を重ねるほうが導入しやすくなります。ブリッジに骨盤回旋を加える、ロールダウンの途中で止めて回旋を入れる、といった形です。
まとめ
- 回旋は脊柱だけの動きではなく、頸椎・胸椎・肩関節・股関節を含む全身の動きとして捉える
- ジョイント・バイ・ジョイント理論では、動くべき関節(胸椎・股関節・肩関節など)と安定すべき関節(腰椎・膝・肩甲帯)が交互に配置されている
- 胸椎回旋が小さいとき、可動域の問題なのかコントロールの問題なのかを見極める
- 腰椎の回旋可動域は小さく、「腰からひねる」動きは胸椎の可動性低下の代償として現れやすい
- 日常動作の大半は立位で起こるため、立った状態で安定・回旋・抗回旋を扱う時間を確保したい
- 回旋の「量」だけでなく「順序」を見ると、観察の解像度が上がる
参考文献
- Neumann, D. A. (2016). Kinesiology of the Musculoskeletal System: Foundations for Rehabilitation (3rd ed.). St. Louis: Elsevier. → 脊柱各部位の回旋可動域と椎間関節の形態的特徴について。
- White, A. A., & Panjabi, M. M. (1990). Clinical Biomechanics of the Spine (2nd ed.). Philadelphia: Lippincott. → 脊柱分節ごとの三次元的可動域に関する古典的資料。
- Panjabi, M. M. (1992). The stabilizing system of the spine. Part I: Function, dysfunction, adaptation, and enhancement. Journal of Spinal Disorders, 5(4), 383–389. → 脊柱の安定化システムを受動・能動・神経制御の3要素で捉える枠組み。
- Cook, G. (2010). Movement: Functional Movement Systems. Aptos: On Target Publications. → Mobility と Stability を交互に捉えるJoint by Joint的な考え方の背景。
- Boyle, M. (2016). New Functional Training for Sports (2nd ed.). Champaign: Human Kinetics. → 関節ごとの役割分担とトレーニングへの落とし込み。
- Vleeming, A., Pool-Goudzwaard, A. L., Stoeckart, R., van Wingerden, J. P., & Snijders, C. J. (1995). The posterior layer of the thoracolumbar fascia: its function in load transfer from spine to legs. Spine, 20(7), 753–758. → 広背筋・胸腰筋膜・大臀筋を介した斜めの力の伝達について。
- Lee, D. (2011). The Pelvic Girdle: An Integration of Clinical Expertise and Research (4th ed.). Edinburgh: Churchill Livingstone. → Posterior Oblique Sling を含むスリングシステムの整理。
- McGill, S. M. (2010). Core training: Evidence translating to better performance and injury prevention. Strength and Conditioning Journal, 32(3), 33–46. → 抗回旋を含む体幹トレーニングの位置づけ。
- Sahrmann, S. A. (2002). Diagnosis and Treatment of Movement Impairment Syndromes. St. Louis: Mosby. → 可動性の高い部位に動きが集中する「相対的柔軟性」の考え方。
鈴木 新之助( Suzuki Shinnosuke)
PHI Pilates インストラクター。
中学生時代、心身の不調により学校に通えない時期を経験。その現状を変える為に、独自に運動や食事の改善、生活リズムの見直しを行い、少しずつ活力を取り戻していきました。
この経験を通じて、不調を抱える方々の力になりたいと想い、仙台のスポーツ専門学校へ進学。授業の中でピラティスに出会い、ピラティスこそが自分が求めていた「不調を抱える人々に寄り添い、前向きな変化をもたらす手段」だと感じ、ピラティスインストラクターとして働きたいと思うようになり、ピラティススタジオBBに入社。
ピラティスインストラクター募集中!
ピラティススタジオBBでは身体科学に基づいたピラティス指導を学びたいインストラクターを募集しています。15年以上の教育ノウハウと充実した研修制度で圧倒的な指導力を身につけることができます。
セッションのご案内

ピラティススタジオBBは、マシンピラティス専門のパーソナルスタジオです。錦糸町・恵比寿・田町・武蔵小杉・三軒茶屋・仙台泉で、お一人おひとりの身体に合わせたオーダーメイドのセッションをご提供しています。
体験レッスンも随時受付中です。姿勢や身体の使い方が気になる方は、お近くのスタジオまでお気軽にお問い合わせください。
体験レッスン受付中!
ピラティススタジオBBの公式Instagramでは、全国のスタジオ情報・エクササイズのワンポイント・インストラクターの指導風景などを発信しております。ピラティスの魅力をより身近に感じていただける投稿が満載です。ぜひフォローしてご覧くださいませ。