
この記事の執筆者:齊藤 桜海
ピラティススタジオBB 三軒茶屋・仙台泉 | PHI Pilates インストラクター
この記事でわかること💡
・従来の6方向が肩甲骨の「位置」を、追加された2ペアが「向き」を表しているという役割の違い
・10方向それぞれについて、後方・上方・側方のどこから見ると捉えやすいかという観察の視点
・挙上動作で複数方向が組み合わさる流れと、10方向を「判定基準」ではなく「記述の語彙」として扱う理由
肩甲骨を「いくつの動き」で捉えていますか
セッションの中で「肩の力を抜いて」「胸を開いて」といった声かけをする場面は多いと思います。このとき私たちは、肩甲骨の動きをいくつの方向で捉えているでしょうか。

養成コースやセミナーで最初に学ぶのは、多くの場合3ペア6方向の整理です。ただ、実際に目の前で動いている肩甲骨を見ていると、その6方向だけでは言葉にしきれない場面に何度も出会います。「寄っているのに浮いている」「下がっているのに前に倒れている」といった状態です。
近年は、この6方向に「向き」の2ペアを加えた10方向で整理する考え方が知られるようになりました。今回は、6方向と10方向の関係、そして現場での観察にどう活かすかを整理します。
かつての標準だった6方向は「位置」の記述
長く標準とされてきた6方向は、次の3ペアです。

- 挙上・下制:肩甲骨が上下に動く
- 内転・外転(retraction・protraction):脊柱に近づく/遠ざかる
- 上方回旋・下方回旋:関節窩が上を向く/下を向く向きに回る
この3ペアに共通するのは、いずれも肩甲骨が胸郭上のどこにあるかという「位置」を言い表している点です。そして、いずれも後方から観察したときに把握しやすい動きでもあります。指導者が背中側に立って見るという現場の習慣とも、うまく噛み合ってきた分類だと言えます。
3次元計測が加えた「向き」の2ペア
肩甲骨は胸郭という曲面の上を滑るように動きます。平面上の移動ではないため、位置が変わらなくても向きだけが変わるという状況が起こります。動いている肩甲骨を3次元で計測できるようになって以降、この「向き」の変化が定義として整理されました。

- 内旋・外旋:縦の軸を中心に向きが変わる。内旋すると内側縁が胸郭から浮いて見える
- 前傾・後傾:横の軸を中心に傾きが変わる。前傾すると下角が胸郭から浮いて見える
いわゆる翼状肩甲骨として一括りに語られる見た目も、内側縁が浮いているのか、下角が浮いているのかで、指しているものが違います。前者は内旋寄り、後者は前傾寄りの現象です。ここを言い分けられると、観察の解像度が変わります。
合わせて10方向、そして観察しやすい視点が異なる
5ペア10方向を、どの位置から見ると捉えやすいかとあわせて整理します。
| ペア | 観察しやすい視点 | 目印 |
|---|---|---|
| 挙上・下制 | 後方 | 肩甲棘・上角の高さ |
| 内転・外転 | 後方 | 内側縁と棘突起の距離 |
| 上方回旋・下方回旋 | 後方 | 下角の位置、肩甲棘の傾き |
| 内旋・外旋 | 上方 | 内側縁の浮き |
| 前傾・後傾 | 側方 | 下角の浮き |
後方から見える3ペアに対して、残りの2ペアは上方や側方からのほうが捉えやすいという点が重要です。背中側からだけ観察していると、「向き」の変化は見落としやすい、あるいは位置の変化として誤読しやすいということになります。
たとえば上方回旋が起きると下角は外側へ移動しますから、後方からは外転したように見えます。しかし実際には、肩甲骨そのものの向きも同時に変わっています。ひとつの見え方が、必ずしもひとつの動きに対応しているわけではありません。
腕を挙げる動作では、複数の方向が組み合わさります
肩甲骨が単一の方向にだけ動く場面は、実際にはほとんどありません。挙上動作を例にすると、おおよそ次のような組み合わせで進みます。

- 腕が上がるにつれて増えていく:上方回旋、後傾
- 可動域の終盤で増える:外旋
- 肩甲帯全体の位置の変化:挙上(鎖骨の動きを伴う)
上腕骨と肩甲骨が一定の比率で協調して動く肩甲上腕リズムはよく知られていますが、その「肩甲骨側」の中身は、上方回旋だけではないということです。なお、それぞれの運動がどの程度起こるかは、屈曲・外転・スキャプション(肩甲骨面)といった動作方向によって異なり、個人差もあります。数値そのものより、複数方向が同時進行しているという前提を持つことが実用的です。
そして押さえておきたいポイントがあります。それは10方向は、肩甲骨の動きを細かく分類してどれかに当てはめるための基準ではありません。観察したものを言葉にするための語彙であり、正常・異常を判定するものでもありません。
「この人は内旋している=正しくない」という読み方ではなく、「腕を挙げていく過程で、後傾よりも先に内旋が大きく出てくる」といった、経過と組み合わせで記述するために使います。静止姿勢のアライメントだけでなく、動きの中でどう変化するかを見るための道具、と捉えるとよいと思います。
まとめ
肩甲骨の10方向を理解することは、指導だけではなく観察したことを記録し他者と共有することができるようになるというメリットがあります。
「肩甲骨が動きにくい」という記録だけでは、次に同じ方を担当するスタッフに何も引き継げません。「挙上の後半で後傾が乏しく、代わりに挙上が大きく出る」であれば、次に何を確認すべきかまで伝わります。カルテ、スタッフ間の申し送り、養成やスタディでの事例共有まで、扱える語彙の細かさがそのまま情報の解像度になります。

- 6方向は「どこにあるか」、10方向はそこに「どちらを向いているか」が加わったもの
- 実際の肩甲骨は常に複数方向が同時に起きている。ひとつに分類せず、組み合わせで読む
- 位置の3ペアは後方から、内旋・外旋は上方から、前傾・後傾は側方から捉えやすい
- 10方向は正常・異常の判定基準ではなく、観察を言葉にするための語彙
肩甲骨の動きを何方向で捉えているかは、見えているものをどこまで言葉にできるかに直結します。ぜひ肩甲骨の10方向を理解し、日々のセッションで活かしてみてください。
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齊藤 桜海(Samia Saito)
PHI Pilates インストラクター。
2022年3月に仙台リゾートアンドスポーツ専門学校を卒業。
在学中にピラティスと出会い、身体の変化や生活のしやすさに心を惹かれ、ピラティスインストラクターとして働きたいと実感。
マットピラティスの資格を取得し、2022年4月に上京と共にピラティススタジオBBへ入社。
2025年7月三軒茶屋スタジオマネージャーへ就任。
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