目次
効果・エビデンス・睡眠時の正しい着方をピラティスインストラクターが解説
「リカバリーウェアは本当に効果があるのか?」
「着るだけで疲労回復するというのは科学的に正しいのか?」
「睡眠中に着るなら、ヒートテックなどの発熱インナーと何が違うのか?」
近年、こうした疑問とともに検索数を急激に伸ばしているのが「リカバリーウェア」です。

数年前まではトップアスリート向けのニッチな製品でしたが、現在では「着る疲労回復」「睡眠中の回復サポート」として一般の方にも浸透し、書店・百貨店・ネット広告などで目にしない日はないほど市場が拡大しています。
しかし、身体を専門に扱う立場として気になるのは、ブームそのものではなく、その中身――本当に科学的根拠があるのか?という点です。
本記事では、ベネクス・TENTIAL・ゴールドウインなどに共通するリカバリーウェアの仕組みを、物理学・生理学の視点から整理し、さらに睡眠時に多くの人が無意識にやってしまっているNGなウェア選び、そして私自身の実測データも踏まえて解説します。
1. 科学的メカニズム
なぜ「着るだけ」で良いと言われるのか?
リカバリーウェアの多くに共通する仕組みは、繊維に練り込まれた高純度セラミックスや鉱石による
「遠赤外線の輻射(ふくしゃ)作用」です。
これはオカルトでも魔法でもなく、熱移動の物理法則に基づいた現象です。
輻射(ふくしゃ)とは?
人体は常に体温を遠赤外線(約9〜10µm帯)として放出しています。
リカバリーウェアに用いられる素材は、この遠赤外線を吸収し、再び身体側へ放射する性質を持っています。
重要なのは次の点です。
- 外部から新たに熱を加えているわけではない
- 自分の体温を「逃がしにくくしている」だけ
「保温」の質が違う
カイロや電気毛布のような加温(熱を足す)ではなく、体温の放散を抑える(熱損失を減らす)ことが目的です。
例えるなら、
「身体を温める」のではなく、「身体が冷えない環境を作る」――魔法瓶に近い考え方です。
その結果、
- 暑くなりすぎにくい
- それでいて冷えにくい
という、睡眠に適した衣服内環境が生まれます。
2. 専門家の視点で整理する「科学的な論点」
① 一般医療機器としての位置づけ
現在流通している主要なリカバリーウェアの多くは、PMDAに届出された「一般医療機器(クラスI)」に分類されています。
これは、
- 人体へのリスクが極めて低い
- 主に構造的・物理的特性によって作用する
とされるカテゴリーであり、その温熱的特性から「血行促進」「筋肉の疲れ・こりの緩和」
といった効能表示が可能になっています。
※ここで言う血行促進とは、積極的に血流を増やすというよりも、冷えによる血流低下を防ぐという意味合いに近いものです。
※治療効果を保証するものではありません。
② 副交感神経に「有利な環境」を作る
微弱な温熱環境と、締め付けの少ない設計は、
- 皮膚刺激を最小限にする(非着圧)
- 体温低下や冷えによるストレスを防ぐ
という点で、生理学的に副交感神経が優位になりやすい条件を作ります。
研究レベルでは、
- 唾液中アミラーゼ(ストレス指標)の低下
- 主観的疲労感の軽減
などを示唆するデータも報告されていますが、これはあくまで「リラックスできる環境を整えた結果としての変化」と捉えるのが妥当です。

③ エビデンスの限界と正しい解釈
誠実に伝えるなら、リカバリーウェアは
- 着れば怪我が治る
- 筋損傷が回復する
といった強い治療効果を示すものではありません。
科学的に最も正確な位置づけは、
冷え・締め付け・汗冷えといった回復に不利な要因を減らし、血管拡張や筋緊張緩和が起こりやすい
生理的環境を整えるための補助的ツール
という理解です。
3. 決定的な違い
吸湿発熱素材(ヒートテック等)との比較
リカバリーウェアを語るうえで、睡眠時の使い分けは非常に重要です。
冬場、パジャマの下に吸湿発熱素材のインナー(ヒートテックなど)を着て寝ている方は多いですが、
回復・睡眠の質という観点では推奨されません。
理由は、熱の扱い方が真逆だからです。
| 項目 | 一般的な発熱インナー | リカバリーウェア |
|---|---|---|
| メカニズム | 水分を吸って発熱(加温) | 体温を逃がさない(保温) |
| 水分処理 | 乾きにくい素材が多い | 乾きやすい素材が中心 |
| 睡眠への影響 | 暑くなりすぎ・汗冷え | 適温維持・ドライ |
科学的にNGな理由:深部体温と汗冷え
人は深い睡眠に入る際、深部体温(脳・内臓の温度)を下げる必要があります。
そのために、
- 末梢血管の拡張
- 軽い発汗
が自然に起こります。
吸湿発熱素材はこの汗に反応して発熱するため、必要以上に体温低下を妨げる可能性があります。
さらに、乾きにくい素材(レーヨン等)は明け方の汗冷えを招き、だるさや体調不良の原因にもなります。
4. 生理学+実測データから見えた「睡眠中の心拍数」への影響
ここまで理論的な説明をしてきましたが、もう一つ、私自身の実測データからもはっきりと言えることがあります。
それは、睡眠中の心拍数への悪影響です。
私は日頃、体調管理のためにOura Ringという指輪型デバイスで睡眠の質を継続的に計測しています。

過去に何度か、吸湿発熱素材のインナーを着用したまま就寝したことがあるのですが、その際のデータは非常に正直でした。
- 睡眠中の平均心拍数が、通常より明らかに高い(下がらない)
- 睡眠スコアが一貫して低下する
「温かいはずなのに、なぜスコアが下がるのか?」
この疑問は、データを見ることで逆に明確になりました。
身体の中で起きている「矛盾」
本来、人は眠っている間に、
- 深部体温を下げ
- 心拍数を落とし
- 心臓を含めた全身の臓器を省エネモードにする
ことで回復を進めます。
しかし、発熱インナーによって衣服内が「暑い(熱がこもった)」状態になると、身体は体温を下げようとして必死に働き始めます。
- 皮膚表面に血液を送り、熱を逃がそうとする
- その結果、心臓のポンプ機能が睡眠中も強く働く
つまり、
「寝ているのに、自律神経や心臓は運動中のように頑張っている」
状態です。
これでは、朝起きたときに「疲れが取れていない」と感じるのも無理はありません。
ウェアを変えるだけで、数値が変わる
私の経験上、就寝時のウェアを
- リカバリーウェア
- あるいは通気性の良い天然素材(綿・シルクなど)
に変えるだけで、
- 心拍数のグラフがなだらかになり
- 睡眠スコアが安定して改善する
という変化は珍しくありません。
これは魔法ではなく、身体本来の回復プロセスを邪魔しない環境を作れているかどうかその違いが、数値として表れていると考えています。
まとめ|投資すべきは「回復の時間」
リカバリーウェアは決して安価なものではありません。
それでも市場が広がっている背景には、現代人が「能動的に休む(アクティブレスト)」
という考え方に気づき始めたことがあると感じます。
- 日中:防寒・活動重視(発熱インナー)
- 夜間:回復・睡眠重視(リカバリーウェア)
この使い分けは、日中のパフォーマンスを最大化するための合理的な選択です。
「少し身体がだるい状態でも、ピラティスをすることで、調子が整った」とピラティススタジオBBのセッション後におっしゃっていただけるのと似たような効果が期待できるように思います。(ピラティスの方が即時的な効果や体感が強いかとは思いますが)
日々、運動指導や身体の不調と向き合う現場では、「運動より先に、まず休めていない」方を多く目にします。
リカバリーウェアは万能ではありませんが、回復に有利な環境を整える一つの手段としては、科学的にも、そして実測データの面から見ても、十分に筋の通った選択肢と言えるでしょう。
ご自身のために。
そして健康を気遣う大切な方へのギフトとして。
「回復する時間」に投資するという視点で、一度見直してみても良いかもしれません。
