1. ピラティスの進化を支えてきた、静かな情熱
世界中のピラティススタジオに導入されている、洗練されたデザインと高い機能性を備えたリフォーマー。その多くには「Balanced Body(バランスドボディ)」の名が刻まれています。
単に“器具を作る企業”としてではなく、ピラティスそのものの質を底上げし、広く伝えるためのパートナーとして、バランスドボディ社は確かな存在感を放ち続けています。
2. カスタム家具職人の“目と手”から生まれた器具たち
バランスドボディ社の創業者であり、現在もCEOを務める**ケン・エンデルマン(Ken Endelman)**は、1970年代にカリフォルニアでカスタム家具職人としてのキャリアをスタートさせました。
ある日、ダンサーからピラティス器具の製作を依頼されたことをきっかけに、「身体のための家具づくり」が始まります。
精密な木工技術と、美しさへのこだわりを活かして開発された初期のマシンは、瞬く間に評価され、ピラティスの世界に欠かせない存在となっていきました。
そしてもうひとつ、Kenがピラティスの発展に大きく貢献した出来事があります。1990年代、ある企業が「Pilates(ピラティス)」という名称の商標権を主張し、他の指導者やメーカーが自由に使用できない状況が生まれていました。
Kenはこの状況を不当と考え、誰もが“ピラティス”という名前を使えるようにするための訴訟を提起。1999年、ニューヨーク連邦裁判所にて勝訴し、「Pilates」という名称は一般名称であり、独占できないとの判決が下されたのです。
この判例により、世界中の指導者やスタジオが「ピラティス」を自由に名乗ることができるようになり、現在のピラティスの普及が可能になったとも言われています。
なお、著者の田沢(ピラティススタジオBB 代表)も、コアアラインのファカルティ講師養成コースに参加した際に、ケンのご自宅でBBQをご馳走になったことがありますが、上記のお話を真剣に語っていただきました。
3. 機能美と実用性を兼ね備えたReformerたち
バランスドボディ製のReformerは、滑らかな動きと直感的な操作性が特徴で、「とにかく扱いやすい」「初心者でも安心して使える」と多くのユーザーから評価されています。特に、スタジオ導入率が高いAllegro 2 Reformerは、美しいデザインと使い勝手の良さを兼ね備えた代表的なモデルです。

フットバーやストラップの位置調整もワンタッチで可能なため、クライアントの体格やニーズに合わせた素早いセットアップが実現でき、指導者からの信頼も厚い一台となっています。
このAllegro 2の前身にあたるのが、折りたたみ式のAllegro Reformer(通称 Allegro 1)と、医療現場での使用を前提に開発されたクリニカルリフォーマーです。
クリニカルリフォーマーは、もともと病院での利用を想定し、キャデラック(トラピーズテーブル)と同じベッドの高さで設計されていました。しかし、ポールスターピラティスやPHIピラティスなど、理学療法士が主導する教育団体からの要望を受けて、後に一般的なスタジオと同じ高さに脚部をカスタマイズしたモデルが登場し、一般的なピラティススタジオではそちらが主流となっています。
こうした柔軟な対応からも、バランスドボディ社が常に現場の声に耳を傾け、改良を惜しまない姿勢を持ち続けていることがうかがえます。製品の進化には、スタジオ現場だけでなく医療・教育分野との協働が深く関わっているのです。

また、2024年には新たにBravo Reformerを発表。ペットボトル約256本分の再生素材を採用した環境配慮型モデルとして、見た目だけでなく「選ぶ理由」に深みが加わりました。
4. 「利益のため」より「動きの質」を追求する姿勢に共感
多くのスタジオがバランスドボディ社の器具を導入する背景には、単なる性能の良さ以上に、企業としての姿勢に対する共感があります。
器具はただの道具ではなく、指導者とクライアントをつなぐ媒介であり、その質はスタジオの信頼そのもの。
だからこそ、利益最優先ではなく、使う人の立場で改良を重ねているメーカーを選びたいという思いが、自然とバランスドボディに向かうのです。
たとえば、ピラティススタジオBBでも、品質と理念の両方に共感し、導入する器具のほとんどをバランスドボディ製で揃えています。指導現場での扱いやすさだけでなく、器具そのものが伝える「安心感」に信頼を寄せているからです。
5. 教育事業「Balanced Body University」で世界中の指導者を支援
2004年、バランスドボディは指導者養成部門 BBU の立ち上げと同時に、旅する継続教育イベント 「Pilates on Tour®(POT)」 をサンフランシスコで初開催しました。以来、北米・欧州・アジア・オセアニアなどで毎年複数回実施され、20年以上にわたり世界中のインストラクターが最新知見を共有する場として発展し続けています。
- 開催地の広がり
近年はデンバー、ロンドン、ニューヨーク、台湾など多彩な都市で開催予定(2025-2026)。残念ながら 日本での開催実績は現在までありません。 - 参加対象
BBU受講生からベテラン指導者、理学療法士まで幅広く、器具ワークショップやケーススタディ、ビジネスセミナーがセットで学べるのが特徴です。 - ピラティススタジオBBの取り組み
当スタジオのスタッフは、新型コロナウイルス収束後の2022年以降、毎年韓国(ソウル)で開催されている Pilates on Tour に参加し、最新のモジュールや臨床系ワークショップを継続的にアップデートしています。現地で得た学びをクラス設計やリフォーマー指導に即還元することで、サービス品質の向上に役立てています。
Pilates on Tourは、単なる研修旅行ではなく、「国際水準の指導・研究コミュニティに参加し続ける意思表明」。日本未開催の今こそ海外での学びが価値を増しており、ピラティススタジオBBはその最前線で知識とネットワークを磨いています。
なお、2026年7月中旬に開催される台湾でのPilates on Tourは、希望する社員スタッフの全員参加を検討しています😊
6. 教える側としての視点から見えること
個人的な話になりますが、私自身は2015年に**CoreAlign(コアアライン)のファカルティ**として、アメリカのサクラメントのバランスドボディ本社まで行き、学びを深めました。

コアアラインは、イスラエルの理学療法士のジョナサン・ホフマンが開発したエクササイズマシンです。
体幹と下肢の連動性にフォーカスした革新的な器具で、歩行パターンの改善や神経系へのアプローチにも活用されます。
現場で使っていて感じるのは、細部に宿る哲学の深さ。動きの導線、可動域、負荷の伝わり方などが、実に丁寧に設計されているのです。
また、メーカーとの関係性も非常にオープンで、現場の声が製品や教育内容のアップデートに活かされる循環があります。これは、ただ器具を「販売する企業」ではなく、ピラティス文化を“共に育てよう”とする企業の姿勢に他なりません。
7. 環境への責任と社会的意義
バランスドボディの魅力のひとつに、「環境へのまなざし」があります。
- FSC認証の木材を採用
- 自社工場は1000枚以上のソーラーパネルを備え、ほぼゼロエネルギーで稼働
- 廃材やリサイクル素材の積極活用(Bravo Reformer など)
器具の開発から流通、教育までの全過程で、地球環境と人への配慮が貫かれている企業は、ピラティス業界でも稀有な存在です。
8. まとめ|共に成長する“パートナー”としてのメーカー
バランスドボディ社は、ただ製品を売るだけの企業ではありません。
それは、指導者やスタジオとともに「動きの可能性を広げる」ことに真摯に取り組むブランドです。
- 現場での声を受け止める柔軟性
- 変化を恐れない改良の継続
- 教育と器具をつなぐ一貫性
- 地球と人に優しい開発姿勢
こうした姿勢に、長年ピラティスに携わる指導者としても、大きな信頼と共感を感じています。
これからスタジオを始める方、器具選びに迷っている方は、ぜひバランスドボディの世界に触れてみてください。
そこには、動きへの敬意と誠実さに満ちた選択肢が待っています。
参考文献 / Reference List
- Balanced Body, Inc. “Company – Good for business and the planet.” 100 k-sq-ft “green”本社・FSC認証材・1,000枚のソーラーパネル等を紹介(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- Balanced Body, Inc. “Allegro 2 Reformer – Intuitive, adjustable, built to last.” 初代発売 2011 年、機能概要(閲覧 2025-08-02)balancedbody.com
- Balanced Body, Inc. “Bravo Reformer™ – Eco-friendly recycled polywood frame.” ペットボトル256本分を再資源化した最新モデル(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- Balanced Body, Inc. “Clinical Reformer® – Frame height options for studio & rehab.” 医療・臨床用途向け仕様(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- Balanced Body, Inc. Press Room. 各種プレスリリース/製品アップデート一覧(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- Pilates, Inc. v. Current Concepts, Inc. 120 F. Supp. 2d 286 (S.D.N.Y. 1999). “Pilates”商標が一般名称と認定された判決全文courtlistener.com
- Balanced Body, Inc. “The Pilates Lawsuit: Who Can Say Pilates?” — 訴訟概要と判決解説(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- SELF Magazine. “The Best At-Home Pilates Reformers Can Sculpt and Strengthen Your Whole Body.” 掲載日 2025-07-10 — Metro IQ・Allegro 2 などを比較紹介SELF
- Balanced Body Education. “Movement Principles – Pilates Training Module.” カリキュラム概要・所要16時間(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- Balanced Body Education. “Pilates Instructor Training – Reformer & Comprehensive Pathways.” 総履修時間・NPCP要件対応(閲覧 2025-08-02)pilates.com
- Instagram. “@balanced_body” — 公式アカウント フォロワー数 206 K (取得 2025-08-02)
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ピラティスの学び
※バランスドボディ社以外での海外研修の過去記事をご紹介しています
この記事の監修者:田沢 優(ピラティススタジオBB 代表)
東京大学大学院・身体科学研究室修了。身体運動学・神経筋制御を専門とし、科学的根拠に基づいたピラティスメソッドを構築。2013年にピラティス国際資格である、PMA®認定インストラクター資格を日本で4番目に取得。2015年「トレーナー・オブ・ザ・イヤー」受賞。PHIピラティスジャパン東京支部長を約5年間務め、都内を中心にパーソナルピラティススタジオを複数展開。オリンピック選手、プロ野球選手、Jリーガー、パラアスリート、頸髄損傷者などへの幅広い指導実績を持ち、インストラクター育成数は500名超。文英堂『運動療法としてのピラティスメソッド』にて3編を執筆。現在は「ピラティスをブームではなく文化にする」ため、後進育成と専門教育に尽力中。