※本記事は、主にピラティスインストラクター向けに作成したトピック記事です。ピラティス愛好家の皆様は、普段インストラクターがどのような視点に立ってレッスンをしているのかの理解向上にお役立ていただければ幸いです。
📘 ピラティス指導におけるキューイングとは?
ピラティスでは、「正しい動き方を教えること」と同時に、**“どう伝えるか”がレッスンの質を大きく左右します。
そのために使われるのがキューイング(Cueing)**です。これはインストラクターが動きを言葉で導くための技術で、主に以下の4種類に分類されます:
キューの種類 | 説明 |
---|---|
🧠 イメージキュー | 比喩や感覚表現を用いて、身体の感覚や意識を引き出す(例:「肋骨に風船があるように」) |
👀 ビジュアルキュー | 実演・鏡・視覚的フィードバックで伝える |
🗣 バーバルキュー | 解剖学や方向指示など、直接的な言語で説明する |
✋ タクタイルキュー | 触れることで動きをサポートするフィジカルなキュー |
ビジュアルキューは、クライアントの「視覚」を通じて、バーバルキューは、クライアントの「聴覚」を通じて、「タクタイルキュー」はクライアントの「触覚」を通じて作用します。

一方、イメージキューは、クライアントの「体性感覚(Somatosensory)」=身体内部の感覚に訴え、状況によっては**「視覚(Visual)」や聴覚(Auditory)、感情的記憶(Emotional recall)**にも作用します。
✅ なぜイメージキューが重要なのか?
ピラティス指導において、イメージキューが重要とされるのは、それが単なる動作の説明ではなく、クライアントの身体感覚や内的な意識に直接働きかける手段だからです。
たとえば「背骨を真珠のネックレスのように並べる」といった比喩的な表現は、言葉そのものが身体の動きを誘導し、力みのない自然な動作へと導きます。

解剖学的な知識に頼らずとも、視覚や触覚のイメージを通して直感的に理解できるため、初心者にも高い効果があります。
また、こうしたイメージは記憶にも残りやすく、レッスン外のセルフエクササイズ時にも活かされやすいのが特徴です。
さらに、緊張をゆるめ、集中力を高める心理的効果もあり、クライアント自身が「自分の身体を感じ取る力」を育てるサポートにもなります。
その結果、動きの質が向上するだけでなく、ピラティスの本質である“意識と身体の統合”がより深く体験されるのです。
🧍♀️ ピラティスで使える質の高いイメージキュー実例集
以下は、実際の現場で効果が高く、多くのインストラクターが活用している「質の高い」イメージキューの一例です。動作の意図と感覚を的確に伝えることを重視した表現を中心にご紹介します。
🧠 頭・首(ヘッドアライメント)
- 「後頭部でビー玉を転がすように」
- 「頭のてっぺんに風船がついていて、天井から引き上げられている」
- 「鼻先で空中に細い光のラインを描くように」
🩻 背骨・体幹・脊柱
- 「背骨を真珠のネックレスのように並べるように」
- 「カーペットを巻き取るように、一節ずつ丁寧に丸める」
- 「背中が氷の上を滑るように滑らかに」
🔄 脊柱の回旋(ツイスト)
- 「背骨をタオルのように絞るように動かす」
- 「肋骨が水面に波紋を描くように広がっていく」
- 「骨盤は安定、背骨はらせんを描くようにしなやかに」
※回旋キューは脊柱だけでなく、肋骨・骨盤の連動と分離を促す効果もあります。
🫁 呼吸・肋骨・胸郭
- 「肋骨の中に風船があり、横と背中にふわっと広がる」
- 「背中にパラシュートがあり、吸う息でふんわり開く」
- 「バケツの持ち手のように肋骨が開いて、吐く息でそっと閉じていく」
✦ 肋骨が“パカっと開く”のを防ぐキュー
- 「みぞおちのボタンをそっと留めるように」
- 「肋骨の前面を磁石で引き寄せるように」
- 「肋骨にリボンを巻き、吐く息でそっと結ぶように」
🧘♀️ 骨盤・骨盤底筋・腰部
- 「骨盤の底にハンモックがあって、優しく支えるように」
- 「恥骨からみぞおちまでジッパーをゆっくり引き上げるように」
- 「仙骨をマットにスタンプするように、静かに預ける」
🦵 股関節・下肢・足部
- 「太ももをソケットに納めるように吸い込む」
- 「足裏でマットにスタンプを押すように接地する」
- 「かかとで砂を押し出すように脚を遠くへ伸ばす」
🤲 肩・腕・肩甲帯・手指
- 「肩甲骨を背中のポケットにそっとしまう」
- 「肩が氷のように溶けて自然に落ちるように」
- 「指先から光が出ていて、それを遠くに伸ばすように動かす」
上記、まずは24個のキューイング例をご紹介しましたが、こちらの表現を随時アップします。
💡 イメージキューの活用ステップ
ピラティスインストラクターは、以下のようなことに気をつけながらビジュアルキューを活用しています。
上記のキューイング例の具体的な活用方法にもなっており、本記事内で理解を深めていただくために、あえて同じ表現も紹介しています。
- 動作の目的と狙う筋・関節を明確にする
「なぜこの動作を行うのか(目的)」と「どの筋や関節にアプローチしたいのか(焦点)」を明確にすると、イメージキューの言葉選びが的確になり、クライアントの動きもより洗練されていきます。
🎯 目的①:肋骨の可動性を高めたい(横隔膜・肋間筋)
目的・部位:呼吸機能向上、胸郭の柔軟性 → 肋間筋・横隔膜・肋骨
よくある場面:胸式呼吸練習、ハンドレッド前の呼吸ワークなど
イメージキュー例:
- 「肋骨の中に風船があるように、横と背中にふわっと広がる」
- 「背中にパラシュートがついていて、息を吸うと優しく開く」
🎯 目的②:股関節主導で脚を動かしたい(殿筋・腸腰筋)
目的・部位:股関節の分離と安定性 → 中殿筋、大殿筋、腸腰筋
よくある場面:レッグサークル、ヒップワーク、シングルレッグシリーズなど
イメージキュー例:
- 「太ももを骨盤のソケットにそっと収めるように」
- 「脚は股関節から“吊るされている”ように軽く動かす」
🎯 目的③:体幹の安定を保ちながら四肢を動かしたい(腹横筋・多裂筋)
目的・部位:インナーユニットの活性化 → 腹横筋、骨盤底筋群、多裂筋
よくある場面:デッドバグ、プランク系、フットワークなど
イメージキュー例:
- 「恥骨からみぞおちまで、ファスナーをゆっくり引き上げるように」
- 「お腹の奥にあるエレベーターを引き上げるように動かす」
🎯 目的④:背骨を分節的に動かしたい(脊柱起立筋・多裂筋)
目的・部位:脊柱の分節的コントロール → 胸椎・腰椎・多裂筋
よくある場面:ロールアップ/ロールダウン、ブリッジなど
イメージキュー例:
- 「背骨を真珠のネックレスのように一つずつ並べるように」
- 「カーペットを巻き取るように、丁寧に動かして」
🎯 目的⑤:肩甲骨の安定と自由な可動を促したい(前鋸筋・菱形筋)
目的・部位:肩甲帯の安定と可動性 → 肩甲骨周囲筋群(前鋸筋・僧帽筋下部など)
よくある場面:アームサークル、ローイング、プッシュアップなど
イメージキュー例:
- 「肩甲骨を背中のポケットにそっとしまうように」
- 「肩から腕が吊り下げられているように、軽く伸ばして動かして」 - クライアントのレベルや言語感覚に合わせてキューを調整する
**初心者にはイメージが湧きやすい「具体的な物体・日常的な感覚」**を用い、上級者には「構造・機能・内観」に訴える抽象的で正確な表現が効果的です。
それぞれのクライアントの理解レベル・感受性に合わせて、キューの質感を変えることが、より質の高いレッスンにつながります。
🧠 キューの調整例|初心者 vs 上級者
① 【腹横筋・体幹の活性化】
初心者向け:
「お腹の中に風船が入っていて、ゆっくりしぼませるように息を吐きましょう」
(→視覚的+物体のイメージ)
上級者向け:
「骨盤底と横隔膜の間の空間が、呼吸に合わせて上下するのを感じてみてください」
(→内観的・機能的な意識)
② 【背骨の分節コントロール(ロールダウン)】
初心者向け:
「背骨を一枚ずつ、シールをはがすようにゆっくり動かしていきましょう」
(→触覚・視覚の具体的な物体イメージ)
上級者向け:
「仙骨から後頭骨までを、重力に逆らわず自律的にコントロールしてみてください」
(→抽象度の高い動きの意識・運動制御)
③ 【肩甲骨の安定】
初心者向け:
「肩甲骨を背中のポケットにそっとしまうように」
(→位置関係と物体の比喩)
上級者向け:
「肩甲帯を骨格の一部として認識し、腕とは独立した動きとして意識してみてください」
(→構造理解と運動分離の認知) - 他のキューと併用することで感覚を補完する
→ 「イメージ+タクタイル」「イメージ+実演」で伝達精度が上がる
🎯 事例①:背骨を分節的にロールダウンさせたい
(目的:脊柱の分節動作/脊柱起立筋・多裂筋の協調)
イメージキュー:
「背骨を一枚ずつシールをはがすようにマットに沈めていきましょう」
タクタイルキュー:
インストラクターが背中に手を添え、1つずつ脊柱に沿って触れながらガイド
補完効果:
言葉で想像させつつ、触覚入力で「どこを動かすか」をリアルタイムで身体に覚えさせることで、分節的動作の習得が加速
🎯 事例②:肋骨の開きを抑えて呼吸と動きを統合したい
(目的:呼吸コントロール/腹横筋・肋間筋)
イメージキュー:
「肋骨にリボンを巻いているイメージで、吐く息でそっと結ぶように」
タクタイルキュー:
肋骨の前面または側部に手を添え、吸気とともに軽く抵抗をかけて感覚に意識を向けさせる
補完効果:
視覚化しづらい肋骨の動きを、触覚入力で実感させることで呼吸の質が向上
🎯 事例③:股関節主導で脚を動かす感覚を習得させたい
(目的:股関節分離/大殿筋・腸腰筋・中殿筋)
イメージキュー:
「太ももを骨盤のソケットに吸い込むように」
ビジュアルキュー:
インストラクターが模型または自分の脚で“股関節を安定させながら脚を動かす”デモンストレーションを見せる
補完効果:
「どの部分を動かし、どこを安定させるか」が視覚で理解でき、イメージとの結びつきが強くなる
🎯 事例④:肩甲骨の安定を保ちながら腕を動かす
(目的:肩甲帯安定/前鋸筋・僧帽筋・菱形筋)
イメージキュー:
「肩甲骨を背中のポケットにそっとしまったまま、腕が空中に吊られているように動かします」
タクタイルキュー:
肩甲骨周囲に手を添え、動きの中で不必要な上方移動を抑制し、正しいポジションを誘導
補完効果:
「動かさない部位」の感覚を触覚で明確にしつつ、イメージによって力みを取り除く
🗣 まとめ|“自分のことば”で伝えることが本当の指導力
本記事において、代表的なイメージキューの例と活用方法をご紹介しました。
しかし、イメージキューは誰かの正解をコピーするものではなく、自分の身体感覚を通して伝える表現です。
インストラクター自身が「これだ」と感じる言葉でなければ、クライアントには響きません。
たとえ同じ動きでも、比喩や表現を“自分の言葉”に落とし込み、状況や相手に応じて自在に使い分けられること。
それがプロのピラティスインストラクターと言えます。
インストラクター以外のピラティス愛好家の方も含めて、上記のイメージキューでご自身がしっくりくる表現をご確認いただければと思います。
ピラティススタジオBB
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ピラティスの学び
「ピラティスインストラクターとしての学び」の大切さを振り返る記事となっております。ピラティススタジオBBでは、国内の学びだけではなく海外の学びも重視し、その中でお伝えしたいことを「トピック」という形でお知らせしております。
この記事の監修者:田沢 優(ピラティススタジオBB 代表)
東京大学大学院・身体科学研究室修了。身体運動学・神経筋制御を専門とし、科学的根拠に基づいたピラティスメソッドを構築。2013年にピラティス国際資格である、PMA®認定インストラクター資格を日本で4番目に取得。2015年「トレーナー・オブ・ザ・イヤー」受賞。PHIピラティスジャパン東京支部長を約5年間務め、都内を中心にパーソナルピラティススタジオを複数展開。オリンピック選手、プロ野球選手、Jリーガー、パラアスリート、頸髄損傷者などへの幅広い指導実績を持ち、インストラクター育成数は500名超。文英堂『運動療法としてのピラティスメソッド』にて3編を執筆。現在は「ピラティスをブームではなく文化にする」ため、後進育成と専門教育に尽力中。